育休明けの男性社員に転勤が命じられた某化学メーカーの件で、日本の転勤制度に注目が集まっています。
共働き世帯が50%を超えた現代、辞令一枚での転勤のシステムが専業主婦前提の制度であることは間違い無いと思います。
同時に企業は原則無期雇用(解雇不可能)なので、不当解雇ならば会社は殆ど敗訴します。
そのため企業には「人員を最小限に抑えて転勤と残業で雇用維持を努力する」のがインセンティブとなります。
なぜどこもそれを崩せないかというと、ゲーム理論で言う「囚人のジレンマ」に入っているからです。
まず法的にも世間的にも金銭解雇を常態化することは出来ません。
「残業・転勤なしの勤務地限定社員」と「残業・転勤ありの高度グローバル社員」で役割を分ける事も可能ですが、
大企業はこれまで作ってきた賃金テーブルがあるので、簡単に変換はできません。
総合職で採用した人を勤務地限定社員へ転換するなら大幅な賃金ダウンは避けられないからです。
メンバーシップ型からジョブ型への転換も叫ばれています。
ところがこれも「無期雇用・残業転勤あり」と関係があります。
ある企業がジョブ型職能への転換を行えば市場での転職可能性が高まり一時的には有能な社員の流出があるでしょう。
一方で日本の転職市場には有能なジョブ型社員は少ないため採用には困ります。
ファーストペンギンが損をするという意味で「囚人のジレンマ」なのです。
一方で法律的に無期雇用を無くすことは政治的に困難です。支持率の高い安倍政権でも
そんな事は言葉すら出せないでしょう。メディアでフルボッコになるからです。
やんわりと、働き方改革、インターバル制度、高度プロ人材、ジョブ型社員、と表現しているのです。
しかしこのままだとどうなるでしょうか?
どんな産業・企業・事業でも栄枯盛衰があります。
事業の立ち上げ時期には多くの人が必要になり、安定化したら効率化で人は減ります。
そして事業の立ち上げ時期と安定期では社員に求められる能力も全く異なるでしょう。
企業はVeichle(乗り物)であり、そこに乗る人は常に変化するのが当然なのです。
無理に一生涯40年も同じ会社に勤めるから転勤させてでも雇用維持しなければなりません。
その結果不幸なのは従業員本人です。なんのスキルも能力も身につかず、企業内の組織文化と人脈にのみ詳しい人が作られます。
そんな村社会で協調性の高い人ばかりが役員になれば、事業の大幅な転換よりも、
過去の友達を大切にすることを優先して会社にとって大切な改革は行えないでしょう。
そもそも改革をしようにも社員はゼネラリストで何も得意分野が無いため世界の企業に勝てるような事業は生み出せません。
結果的に正社員には安定的に発生するルーチンワークや事務作業しかさせられなくなります。
マニュアルがあり、教えれば短期間でマスターできる業務ばかりです。
そうなれば社内でイノベーションを起こすことは不可能です。
そればかりかルーチン業務はあと数年でコンピューターにより置き換わってしまうでしょう。
無期雇用という制度は日本の成長を阻む有害な制度といえるでしょう。