法人成りをする前に読んでほしいこと

管理会計コンサルタントの牧野雄一郎です。

今日はフリーランス(個人事業主)が法人成りするときの注意点などを挙げておきたいと思います。

「聞いてないよ~」

「早く言ってよ~」とホント嘆いた事も多々あります。

法人化にももちろんメリットがありますが、多くのフリーランスにとって正しい知識を元にベストな選択が行えることを祈念して。

まず、世の中には個人事業主が2018年時点で220万人いるそうです。

法人数とほぼ同等とのこと。個人事業主が「会社」であるかは微妙なところですが、中には人を雇用している個人事業主も多いため会社と同義語と捉えてもいいでしょう。

さて、個人事業主が軌道に乗ってくると「法人化」が次のテーマとして検討の遡上に上がってきます。

●法人化すれば経費を多く積みませる

●法人化すれば節税して無駄な税金を払わずに済む

などなど、、、 まことしやかにささやかれるこのような情報は事実なのでしょうか。

私は2015年の2月に個人事業主として開業しました。それまでは大企業でサラリーマンをしていましたから、個人事業主として稼げる保証は全くありません。

大企業ではまったく知らなかったことや、初めての経験だらけ。本文を執筆時の2018年12月時点で約4年が経ちましたが今思えば暗闇でボクシングしているような感じ。よくここまで生き残れたなとしみじみ思います。

でなぜこの記事を書くかというと私も2018年11月に「法人成り」をしたわけです。ここで分かったのは、法人になると個人事業主としてはまだまだ知らなかったことが山ほど押し寄せるということ。もっと厳しい社会の縛りに組み込まれるわけです。

世間一般で語られる「法人化のメリット」とは違い「法人化のデメリット」も多く見受けられました。そのことを順番にお話ししたいと思います。

法人化のメリット

法人化のメリットは多くの場面で語られておりますので簡単に紹介します。

信用力が付く

まず信用力が付くと言うこと。とはいえ、個人事業主に毛が生えた程度、人も雇っていない、オフィスはレンタルのコワーキング、なんてケースは多いのでどれほどの効果があるのか全く分かりません。

広告が打ちやすい

意外と語られていませんが、広告やプレスリリースは、個人で打つことはなかなか難しいですね。法人化すると一般の方からの印象や、メディアでの取り上げやすさには大きな差があると感じます。

レバレッジを掛けられる

これは少し先の話になりますが、借入金や増資を通じて大きな商売を行いやすくなります。

節税ができる?

法人化でのメリットを考える場合にまず目にするのが「節税できる」といううたい文句です。事実、個人事業主が10個の節税策があるとすれば、法人は30の節税策があるともいえます。

これは嘘ではありませんが、何のデメリットもなく節税だけを享受できるかというと、そうではないことがわかりました。詳しくは後半で。

法人化のデメリット

さてここからが本稿のメインテーマである法人化のデメリットです。端的に幾つかの観点で見ていきましょう。

 

開業の手間

法人の場合、開業に関わる手間が個人事業主と比べてとにかく多いのです。

法人化した際に必要となることを、個人事業主と比べてみましょう。

税務署

税務署への対応は個人事業主でも法人でもあまり変わりません。

●開業届

●青色申告業者の届け出

●源泉徴収納付の特例申請

社会保険の加入・切り替え

社会保険は届け出先が各々異なるので少し丁寧に説明いたします。

●個人事業主の場合
「国民健康保険」・・・自宅最寄りの市役所・区役所へ届ける。

「国民年金」・・・年金事務所に届け出をすればOKです。それほど手間は掛かりません。

●法人の場合
2014年頃より、全ての法人が社会保険加入を義務づけられるようになりました。
社会保険加入は事業所登記場所が管轄となっている年金事務所に申請に行きます。

書類を数枚わたされてそこに記入していきます。窓口の方は比較的丁寧に教えてくれましたが後でちょっとしたミスが発覚。。。

とにかく各書類の言葉の意味がわからない。面倒なことも多いです。私の場合、妻、子供二人を扶養に入れます。

>事業者・・・私本人(会社の代表者)
>従業員・・・私本人(唯一の社員)
>扶養者・・・妻、子供2人

これらそれぞれの申請書が必要となります。あ~ややこしい。社労士に頼むとおそらく3万円程度でやってくれるのかも知れません。

法人化した際には個人の国民健康保険と国民年金を「脱退」します。

●国民年金・・・自宅住所が管轄の年金事務所に電話で申請して、切り替えをおこなってもらう。

●国民健康保険・・・新しい協会健保の保険証が届いたら市役所・区役所へ行き脱退手続きをする。

国民年金は加入者全員が一律で同じ料金を払います(約16000円/月)。

国民健康保険は加入者の「前年度の所得」によって月額が決まります。ちなみに確定申告をするのが3月で決定通知書は5月に送られてきます。支払は6月から翌3月までの10ヶ月です。つまり、国民健康保険料は年間12ヶ月分を10ヶ月に割り戻して支払っているのです。だから最後に「清算」という作業が必要となります。ここは自治体が勝手にやってくれますが、計算が本当に合っているのか信用できませんね。

また、法人化して「社会保険」の場合は「役員報酬」を決めなければいけません。役員報酬の月額に応じて毎月の社会保険料が決まります。社会保険料は「労使折半」というレトリックが使われていますが、実態はどちらも会社で稼いだ付加価値から生み出されますので、どうにかしてこれを減らしたいものです。ここは「役員報酬の決め方」として別記事に譲りたいところです。

法人成り後のデメリット

法人成りの手間が多いのはなんとなく分かっていただけたかと思います。ここでは具体的にその後、どのような事がおきるのかを紹介いたします。

社会保険加入のデメリット

最大のデメリットはこの社会保険の加入です。

法人は一律に社会保険に加入しなければいけません。いちおう加入は自己申告ですのですぐに処分があるわけではありませんが、遡って3年間ほどは未加入期間に対する強制徴収があるようです。諦めて加入しましょう。

なぜ社会保険がイヤかというとそのコストです。

国民年金は一律約16000円/月です。年額で20万円程度となります。また、国民健康保険は所得比例となります。課税所得の約10%です。例えば個人の所得が800万円くらいの場合、課税所得が600万円くらいとなり、健康保険は年60万円ほどになります。

一方で法人化して社会保険に加入するとどうなるでしょうか。こちらは「厚生年金と協会健保の合計」で給料の30%となります。

給料の30%というのは具体的にどういうことでしょうか。

例えば、社長の役員報酬を40万円とした場合、1ヶ月の社会保険料は以下のようになります。

●本人負担額・・・40x15%=6万円
●会社負担額・・・40x15%=6万円

合計で12万円です。「労使折半」とか「会社が半分負担してくれる」というレトリックがよく使われます。多くの人がこれを勘違いしています。それは「元々あなたの給料から出ている」ということを。

会社負担額は、便宜上会社が納めているだけで、実際には労働者に与えられた付加価値(給与の原資)から支払われているのです。

これを一人法人の代表としてみたらいかがでしょうか?

もともと付加価値として全額個人の財布に入れようと思っていた額の約30%を社会保険に持って行かれるということなのです。個人事業主の場合の負担率が約15%だったとすれば大きな変化ですよね。

誤解を与えないよう補足すると、社会保険が全て悪いわけではありません。厚生年金の掛け金は上記の例であれば12万円のうち約7万円となります(残りは協会健保)。年間の掛け金は約84万円となりますから、国民年金の掛け金(年20万円)に対して4倍近くとなります。国民年金と厚生年金では将来の受け取り年金額が異なります。最後に自分へ返ってくる額としては当然大きな金額となります。ただし現在は掛け金に対してマイナスとなっている厚生年金への投資が割にいいものではありません。

ポイントは以下の通りです。

●社会保険に入る必要があり、そのコストは給料の約30%となる。

●一人社長としては「会社負担」も実質的には本人負担とかわらない。

●付加価値の30%を社会保険料で持って行かれるのは悔しいし、収益的に厳しい。

私の場合、妻の国民年金も払っていましたので、その分が今度は扶養になると不要なので、若干の差額詰めにはなりますが、、、

でもってまだまだこの社会保険にまつわるデメリットはあります。それは後ほど。

法人登記

面倒な社会保険の話を一旦やめて、ちょっと話を戻して法人登記の話です。

個人事業主の場合は資本金もなければ登記簿も必要ありません。ですので、設立届は税務署に開業届を持って行くだけです。

しかし法人の場合はそう簡単ではありません。法人の憲法ともよべる「定款」の作成が必要です。これらはネットにも多くの事例サンプルがありますのでよほど特殊な事業でなければ無難な定款は作れることでしょう。そして定款の認証には公証人役場というところへの申告が必要です。

なぜ私が決めた定款を誰かが「認証」しなければいけないのか、意味が分かりませんが、そのようになっています。

定款認証は約5万円かかります。電子定款という手段を使うとこれが無料になるそうです。

登録免許税も必要となります。約20万円です。

資本金の払い込み証明も必要になります。これは不思議で口座ができていない段階で必要なのですが、自分から自分でもよいので、資本金に相当する額を銀行口座に私が入金したという証拠が必要だそうです。

私は資本金を100万円にしたので、二つの口座間で金額を移し、その通帳コピーを提出しました。考えたら資本金が大きいだけでこれが結構大変だなと思います。

これらの作業は一度きりだし面倒なので、司法書士さんに依頼しました。司法書士への依頼額は約8万円でした。

免許税とトータルで約29万円を支払いました。

最近の裏技としては会計ソフトのfreeeやMFクラウドがサービスしている会社設立パックを使うと良いです。定款作成から始まり、電子認証も、登録用の書面印刷も一括で実現できます。

登録免許税の約20万円だけで上記ができます。ただし最寄りの法務局へ自分で申告することが必要となります。

法務局へ何度も行く

で、法務局というのも今まで行ったことがありませんでした。簡単に言えば法務局は法務省の出張所で、各市役所などに併設されています。

法人化すると何かと申請をする際に「登記簿謄本」と「印鑑証明」が必要になります。登記簿とは会社の出資額、代表者、代表者の住所などが書いてあります。同じく法人代表印も重要な役割です。登記に使った印鑑は印鑑証明という証拠を取らないと機能しません。

この登記簿謄本と、法人印鑑証明を何度も取りに行かなければいけないのです。これは結構面倒でした。

あらためて分かったことは、「自宅から遠いところで登記してはいけない」ということです。

自宅から遠いと、度々登記地の行政施設に行かなければ成りません。所轄の税務署、法務局、年金事務所と。私は横浜の関内で登記しました。関内へは電車1本で迎えるためアクセスがいいですし、上記行政施設は全て駅近郊にあります。これはラッキーでした。こんなことを知らずに日本橋とか、銀座に登記とかしてたら大変なことでした。

銀行口座がなかなか作れない

意外と苦労したのが法人の銀行口座開設です。個人事業主だと開業届や直近の確定申告書の写し、住民票といったものがあれば口座作成は可能です。

しかし法人口座はマネーロンダリング等で審査が厳しく、代表者の印鑑証明、住民票、法人の登記簿謄本、印鑑証明、オフィスの賃貸契約書、直近の確定申告などあらゆる資料が必要です。

何度も法務局や、区役所、そして銀行(信金)へと足を運びました。

新設法人は審査が厳しい

法人成りというと個人事業主の延長と考えていましたが、実際は新設法人への審査は総じて厳しいです。よほど3期終わっている個人事業のほうがいろいろ融通が利くでしょう。

融資などは新設法人は本当に厳しいです。このことは法人成りしてからわかりました。

学び:これだけはやっておけ

お金は個人事業主のときに借りておく

個人事業主の場合、2期以上事業を行っているなら、運転資金のために融資を使うことをオススメします。

融資と言ってもあまりピンとこないかも知れませんが、借入はしておいた方が無難です。いまは日本政策金融公庫などなら2%以下の固定利率でお金を借りることができます。しかも無担保無保証で。

毎月100万円の売上があるなら、2ヶ月分の200万円くらいは借りておいた方がよいでしょう。日々の取引では何があるか分かりません。だから法人化する前から借入をしておき、安定した運営を心がけることは必要でしょう。

まぁもっと言えば、サラリーマンのうちにお金は借りておいた方が良いですね(笑)

契約書などをしっかり作っておく

個人事業主だと取引額が小さいため契約書をしっかり作らないケースが多いです。しかし法人成りした際に、金融機関などからは個人事業主時代の契約書を提示を求められることがあります。少なくとも10万円を超える取引では契約書を作り残しておきましょう。

入出金は銀行口座を使う(現金を使わない)

これも同じ事ですが、お金の出し入れに現金をなるべくやめましょう。入出金は基本的に銀行口座を使いましょう。ネットバンク(ジャパンネット銀行や住信SBI等)を使うと振込手数料も安く抑えられます。

確定申告の控えを取っておく

これ全くルールを知りませんでした。確定申告を私は自宅で作成して税務署へ郵送してました。郵送すると税務署の受付印がないわけです。過年度の確定申告を金融機関に提出する際は税務署の受付印がないとダメです。当然ですよね。自分で偽造できてしまいますから。

どうするのかというと、確定申告をPDFで印刷した際に、「提出用」と「控え」が同時に印刷されると思います。この「控え」も同封して送り、返信用封筒を入れておくそうです。そうすると控えに受付印を押してくれるとのこと。

これが無いと確定申告の証明ができないのです。

では受付印がない場合どうするのか?これがまた大変でした。所轄の税務署に行き、「個人情報の開示請求」を行います。税務署でその旨を申し出ると過去3期分の確定申告書の写しをもらえます。本人が行き、3期分の何が欲しいのか手書きですよ。全部書きます。さらに免許証を提示します。すると税務署員が署内に電話して、目的の資料があるかを問合せしてくれます。

しかーーーーーーーーし!ここで写しをもらえるわけではないのです。大きな落とし穴。なんと本人確認に3週間掛かるとのこと。あほか? 本人が来て免許証を見せているのにこれ以上何を確認するというのでしょうか? 第三者機関が本人確認を行い、「写しを発行して良いよ」というまでに3週間掛かるそうです。実際は約2週間で連絡が来ました。もう一度税務署に行ってようやく確定申告の写しをもらえたのです。なんたる徒労感。。。

納税の証拠を取っておく

いろいろなシーンで領収書は威力を発揮します。なんといっても信頼のない新設法人です。

個人でも、代表者がどのように費用を支払っていたのかが一つ一つの信用を高めてくれます。

●所得税、個人事業税の納付書・領収書

●住民税、固定資産税の納付書・領収書

●電気、ガス、水道といった公共料金の納付書・領収書

もちろん、銀行からの引き落としでしたら銀行の通帳でも構いません。

まとめ

いとせず6400文字を超える長文になってしまいました。いずれにせよ多くのフリーランス・個人事業主にとって有益な情報になることを祈念しております。時間があったらもう少しビジュアルに、具体的数字を交えてかきなおします。

また節税に関しては別記事にて。